Windows 10 の延命は「いつ・どこで・どう買うか」で成否が決まります。本記事は、法人の Windows 10 Pro デバイスを対象に Extended Security Updates(ESU)を正規ルートで購入・導入・配布するための決定版手引きです。販売開始タイミング、CSP/ボリュームライセンスの違い、個人やドメイン未参加 PC の扱い、そして実機投入コマンドや運用の勘所まで、現場で迷わないレベルの具体性で解説します。
要点サマリー(最初に結論)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 販売開始 | 2024年11月1日:ボリュームライセンス(EA/EAS等)で Year 1(2025-2026)のESUが価格表に掲載/受注開始。 商用CSPは2025年9月1日から順次提供開始。実際のESUパッチ配信は 2025年11月の更新から。 |
| 主な販路 | Microsoft 認定 CSP(Cloud Solution Provider)(例:CDW、Insight 等)、または ボリュームライセンス(LSP経由のEA/EASなど)。 |
| SKUの例 | (一例)Windows 10 ESU Year 1 Commercial:DG7GMGF0SSGZ-0004。セグメント別(Commercial/Education/Nonprofit)と年次(Year1〜3)で SKU が分かれます。実際の品番は地域・契約形態で異なるため、最新の価格表で要確認。 |
| 価格と年次 | 法人はデバイス単位・年額。Year 1:$61/端末(以降は年ごとに倍増:Year 2 $122、Year 3 $244 目安)。 消費者(個人)は原則1年のみ(2025/10/15〜2026/10/13)。$30/年のほか、Windows Backup有効化またはMicrosoft Rewards 1,000ポイントで無償化の選択肢あり(地域により条件差・改定あり)。 |
| 購入前提条件 | Microsoft 365 テナント(Entra ID)を保有。テナント名・プライマリドメイン名・必要台数・対象エディション(Pro/Enterprise等)を販売店に提示。Software Assurance は不要。 |
| ライセンス登録 | 購入後、Microsoft 365 管理センター(管理者)に ESU の MAKキーが掲載。CSP の場合はパートナーセンター側で顧客テナントにひも付け。 |
| キー適用方法 | SLMGR(slmgr.vbs)で端末へ直接投入。少数台は手作業、複数台は PowerShell/Intune/MECM/VAMT で一括展開。 注意:ESU は MAKのみで、KMSによる認証は不可。 |
| 更新配布 | キーを有効化した PC には、通常の Windows Update/WSUS 経由で ESU セキュリティ更新が降下。 |
| ドメイン未参加・個人PC | Windows Update(設定)に登録ウィザードが出現。$30支払い、または Windows Backup 有効化・Rewards 1,000ptで 1 年分を取得。 個人向けは Microsoft アカウント必須(ローカルアカウントのみは不可)。 |
| サポート期間 | Windows 10 の正規サポート終了:2025年10月14日。 商用 ESU を連続購入すれば最長 2028年10月まで延長(3年)。個人 ESU は 2026年10月13日までの 1 年。 |
| 代替策 | Windows 11 へのアップグレード/買い替え、Windows 365 や Azure Virtual Desktop の活用(これら経由の Windows 10 は ESU が追加費用なしで適用される条件あり)。 |
ESU とは何か——「延命の橋」
ESU(Extended Security Updates)は、Windows 10 のサポート終了後も「重大(Critical)/重要(Important)」のセキュリティ更新のみを提供する有償延長プログラムです。機能追加や不具合修正、設計変更、一般サポートは含みません。Windows 10, version 22H2 が前提で、22H2 以外は対象外です。法人は 3 年間(Year1〜3)を年単位で連続購入、個人は 1 年間のみの提供です。
- 開始タイミング:実際に ESU の配信が始まるのは2025年11月の月例から。キー自体は前もって配布・認証しておけます。
- 年次の連続性:Year 2/3 だけの単年購入は不可。ESU は累積のため、Year 2 を使うには Year 1 の権利が必要、Year 3 には Year 1+2 が必要です。
- クラウド特典:Windows 365 の Cloud PC や対象の仮想マシン経由の Windows 10 は、追加費用なしで ESU の恩恵を受けられる構成があります。
法人が ESU を「どこで買うか」——販路と実務
ボリュームライセンス(EA/EAS 等)
- いつから:2024年11月1日に Year 1(2025-2026)が価格表に掲載。LSP(Licensing Solution Provider)経由で見積・発注。
- 管理:購入後、Microsoft 365 管理センターの「課金 > 自分の製品 > ボリュームライセンス」から MAKキーを取得可能。
CSP(Cloud Solution Provider)
- いつから:商用 CSP は2025年9月1日から販売開始。CDW や Insight などの CSP 販売店で取り扱い。
- 実務:販売店がパートナーセンターで顧客テナントに紐づけ。顧客管理者は Microsoft 365 管理センターで MAK を受領。
- 依頼のコツ:見積依頼時は「Windows 10 ESU(デバイス/年単位)」「セグメント(Commercial/Education/Nonprofit)」「Year(1〜3)」を明記。テナント名/ドメイン名/台数を添えると確実。
SKU と価格の読み方
| 区分 | 期間 | 参考価格(USD) | SKU例 |
|---|---|---|---|
| Commercial | Year 1(2025/11〜2026/10) | $61/端末 | DG7GMGF0SSGZ-0004(一例) |
| Commercial | Year 2(2026/11〜2027/10) | $122/端末 | (年次で異なる) |
| Commercial | Year 3(2027/11〜2028/10) | $244/端末 | (年次で異なる) |
| Consumer(個人) | 2025/10/15〜2026/10/13 | $30/年(または Rewards 1,000pt/Windows Backup有効化で無償) | Windows Update の登録ウィザードから取得 |
注:価格は目安。通貨換算・契約形態・地域で異なります。
購入前提条件と準備チェック
- Microsoft 365 テナント必須:ESU の MAK キーは Microsoft 365 管理センターに掲出されるため、組織の Entra ID テナントが必要です。
- SA(Software Assurance)不要:ESU は SA 非依存の年額・端末単位ライセンスです。
- 対象 OS:Windows 10 Version 22H2 のみ。最新の SSU/LCU 適用を推奨(例:2024年11月以降の累積更新)。
- ネットワーク:MAK 認証先(例:
activation.sls.microsoft.com、validation.sls.microsoft.com)への通信を許可。 - 体制:少数台なら手動、数十〜数千台は Intune/MECM/VAMT/スクリプトで自動化。
キー取得と適用(法人環境)
管理センターで MAK キーを入手
- 管理者アカウントで Microsoft 365 管理センターにサインイン。
- 「課金」→「自分の製品」→「ボリュームライセンス」タブ→「契約」→対象契約の製品キー表示を開く。
- Windows 10 ESU(Year1/2/3)の MAK キーを控える。
端末への投入コマンド(SLMGR)
管理者権限のコマンドプロンプトで以下を実行します(オフライン環境は電話認証を使用可)。
rem 1) ESU MAK キーをインストール
slmgr.vbs /ipk XXXXX-XXXXX-XXXXX-XXXXX-XXXXX
rem 2) 年次に応じた ESU Activation ID を指定してアクティベーション(ネット接続必須)
rem Year 1: f520e45e-7413-4a34-a497-d2765967d094
rem Year 2: 1043add5-23b1-4afb-9a0f-64343c8f3f8d
rem Year 3: 83d49986-add3-41d7-ba33-87c7bfb5c0fb
slmgr.vbs /ato
rem 3) ステータス確認
slmgr.vbs /dlv
重要:ESU は MAK のみ。KMS での ESU 認証は不可です。MAK キーは1キーで複数台分のカウントを持つため、配布はスクリプトによる一括化が現実的です。
Intune/MECM での一括展開例(概念)
- Intune(Windows スクリプト/リメディエーション):ESU MAK と対象年次(Activation ID)をスクリプト化し配布。検出ルールは下記レジストリやイベントログを使用。
- MECM(パッケージ/アプリ):同様にスクリプト化してコレクションへ展開。
- VAMT:MAK の集中管理・適用・カウント把握に有効。
有効化の検証ポイント
- レジストリ:
HKLM\SOFTWARE\Microsoft\Windows NT\CurrentVersion\SoftwareProtectionPlatform\ESU(値の有無) - イベントログ:
Applications and Services Logs > Microsoft > Windows > ClipESUの Event ID 113 など - Windows Update に ESU 更新が提示されるか(WSUS 併用時は承認ルールを要確認)
更新の配布(Windows Update/WSUS)
ESU は、通常の更新チャネル(Windows Update/WSUS/カタログ)で配信されます。WSUS 環境では、対象製品・分類(Windows 10, version 22H2/セキュリティ更新)の承認ポリシーに ESU 端末が含まれているかを確認します。Server 2025 + WSUS など一部構成では ESU 配信に影響する既知の制約が報告されるため、検証環境での事前テストを推奨します。
ドメイン未参加 PC/個人ユーザー向けの登録
個人向け ESU(Windows 10 Home/Pro 個人利用)は1年間のみの提供です。設定 > 更新とセキュリティ > Windows Update に登録ウィザードが順次表示され、下記のいずれかを選択できます。
- Windows Backup を有効化(OneDrive を用いた設定・フォルダの同期)→ 追加料金なし
- Microsoft Rewards 1,000 ポイントを充当 → 追加料金なし
- $30 を支払って登録
留意点:個人 ESU はMicrosoft アカウント(MSA)でのサインインが要件です。登録条件は地域差(EEA等)や運用変更があり得るため、ウィザードの提示内容に従ってください。登録後は2026年10月13日までのセキュリティ更新を受け取れます。
「よくある誤解」を正す
| 誤解 | 正しい理解 |
|---|---|
| ESU は KMS でも認証できる | できません。ESU の認証は MAK のみ。KMS は不対応です。 |
| Year 2/3 から途中参加できる | 不可。ESU は累積のため、Year 2 を使うには Year 1 の購入が必要、Year 3 は Year 1+2 が前提。 |
| 個人も 3 年延長できる | 不可。個人向け ESU は原則 1 年のみ(2025/10/15〜2026/10/13)。 |
| ESU を入れると Windows 10 に機能追加が戻る | 戻りません。ESU はセキュリティ更新のみ。機能追加や一般サポートは含まれません。 |
| ESU は 22H2 以外でも使える | 対象外。Windows 10 Version 22H2 が必須です。 |
導入プロジェクトの実行計画(現場向け)
スケジュールの雛形
- 〜2025年8月:資産棚卸し(22H2 非対応端末の抽出)/WSUS/Intune/MECM の前提整備。
- 2025年9〜10月:契約・キー入手/パイロット 3〜5% に MAK 投入・配信テスト。
- 2025年11月:本番ロールアウト。エラー監視(ClipESU 113、slmgr /dlv 結果等)とフォロー。
- 2026年10月:Year 2 更新判断(未移行資産台数と移行計画の進捗で意思決定)。
配布バリエーションと選び方
| 方式 | メリット | 向く構成 |
|---|---|---|
| 手動(SLMGR) | 少数台なら最短・確実 | 数台〜十数台の小規模 |
| スクリプト(GPO/PSRemoting) | AD 管理下で一括投入 | オンプレ中心、中規模 |
| Intune(スクリプト/リメディエーション) | クラウド配布・検出ルールで合否可視化 | テレワーク端末・多拠点 |
| MECM(パッケージ/アプリ) | 段階展開/メンテナンスウィンドウと親和 | 大規模・厳格な変更管理 |
| VAMT | MAK の集中管理と消費数トラッキング | MAK 管理を厳密にしたい場合 |
トラブル対処のヒント
- ESU 更新が降りてこない:22H2か、MAKが有効化済みか、ネットワークで認証先がブロックされていないか、WSUS の承認に漏れがないか確認。
- 管理センターにキーが見えない:発注後に 反映まで数十時間かかる場合あり。契約 ID の選択ミスに注意。
- オフライン端末:電話認証(slmgr /ipk → /dti → /atp)を使用。承認ワークフローに組み込む。
- カバレッジの誤解:Year 2/3 のみ購入は不可。途中参加は Year 1 も併せて調達が必要。
セキュリティ/アプリの並走計画
- Microsoft 365 Apps:Windows 10 上でも2028年10月10日までセキュリティ更新あり(機能更新は 2026年8月まで)。ESU と合わせて移行計画の緩衝材に。
- Microsoft Defender:セキュリティインテリジェンス更新は2028年10月まで継続予定。ESU 環境での最小限のガードとして活用。
- Windows 365/AVD:クラウド PC や対応 VM 経由の Windows 10 は ESU の追加費用がかからない構成があるため、老朽 HW を抱える部門の「安全な延命」に有効。
ケース別の最適ルート
| ケース | おすすめ方針 |
|---|---|
| 小規模企業(〜50台) | CSPで Year 1 を購入→手動+スクリプトで MAK 投入。WSUS なしなら Windows Update に任せる。 |
| 中堅(50〜500台) | EA/EAS または CSP。Intune/MECMで段階展開。検出ルールで可視化しロールバック手順を整備。 |
| 多拠点・厳格な変更管理 | MECM+WSUS でリング配布。メンテナンスウィンドウと CAB テストを徹底。 |
| ドメイン外の現場端末 | 個別に SLMGR で MAK 投入。運用・証跡を残すために QR 付き手順書や台帳(端末名/ユーザー/有効化日時)を作成。 |
| 個人・在宅端末 | Windows Update の登録ウィザードから $30/Rewards/Backupのいずれかで 1 年延命。MS アカウント必須。 |
実務テンプレ(コピペ可)
見積依頼メール(CSP/LSP向け)
件名:Windows 10 ESU 見積依頼(Year1/Commercial/台数:120)
●組織テナント:contoso.onmicrosoft.com
●対象エディション:Windows 10 Pro(22H2)
●希望SKU:Windows 10 ESU Year 1(Commercial/デバイス単位)
●台数:120
●希望販路:CSP(または EA/EAS)
●希望開始:2025年10月中
●備考:管理センターへのキー掲載予定日/請求タイミングを確認したい
端末投入スクリプト(概念・PowerShell)
$EsuMak = "XXXXX-XXXXX-XXXXX-XXXXX-XXXXX"
$ActivationId = "f520e45e-7413-4a34-a497-d2765967d094" # Year 1
Start-Process -FilePath "cscript.exe" -ArgumentList "C:\Windows\System32\slmgr.vbs", "/ipk",$EsuMak -Verb RunAs -Wait
Start-Process -FilePath "cscript.exe" -ArgumentList "C:\Windows\System32\slmgr.vbs", "/ato",$ActivationId -Verb RunAs -Wait
注:本番投入前に検証用リングで試験してください。
最後のチェックリスト
- 購入ルートは決めたか(EA/EAS or CSP)。
- テナント情報(ドメイン・契約ID)と台数が整理されているか。
- 対象端末は 22H2 かつ最新 SSU/LCU 済みか。
- MAK 認証先への通信が許可されているか。
- 配布方式(手動/Intune/MECM/VAMT)と検出ルールが用意できているか。
- 2025年11月の初回 ESU 配信前にパイロットで実機検証を終えたか。
まとめ
法人:Microsoft 365 テナントを前提に、EA/EAS または CSP(CDW・Insight 等)から Windows 10 ESU(Year 1)を調達。MAK を SLMGRで投入し、Windows Update/WSUS で配布すれば OK。KMS は不可に注意。Year 2/3 を視野に、2025年10月中に鍵配布とパイロットを終えるのが安全です。
個人/ドメイン外:Windows Update の登録ウィザードに従い、$30/Rewards 1,000pt/Windows Backup 有効化のいずれかで 1 年延命(MSアカウント必須)。3年延長が必要なら、法人向け販路のみが対象です。
移行戦略:ESU はあくまで「橋」。Windows 11 への更改、あるいは Windows 365/AVD の活用を並走させ、2026〜2028年のうちに計画的な脱 ESU を完了しましょう。

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