Windows 11 プレビュー更新プログラム KB5058499 を適用した直後から、Microsoft Word 上で「数字のあとに黒いドットが混入する」「入力した ‘2’ や ‘3’ が勝手にドットへ置き換わる」といった深刻な文字化けが報告されています。本稿では原因のメカニズムを徹底的に分解し、今すぐできる応急処置から企業環境での恒久対策、検証フローまで網羅的に解説します。
不具合の概要
- 対象環境: Windows 11 23H2/22H2 以降 + KB5058499(2025 年 5 月 29 日公開のプレビュー版)
- 発生ソフト: Microsoft Word(Microsoft 365 ローカルインストール版、および Office 2021/2019/2016)
- 症状:
- 数字入力直後に未知の黒色中点(0x2022 付近のグリフ)が自動挿入される
- 特定のフォントで
2
または3
をタイプすると該当文字がドットに置換される - 文書保存後に再度開くと置換が固定され、他 PC でも再現
- 再現率: 日本語 IME (Microsoft IME, ATOK) を問わず高確率で発生
- Word 以外: Excel/PowerPoint では現時点で未確認。ただし同じ Office 共通ライブラリに依存するため波及リスクあり。
発生条件と原因の切り分け
KB5058499 は「プレビュー(先行)累積更新」であり、月例の本番配信よりも 2~3 週間早く一般ユーザーに提供されます。このタイミングでは比較的エッジケースのバグが残っていることがあり、今回も内部のフォントレンダリング スタック(DirectWrite + Uniscribe 相当)へ導入された最適化が Word の段落レイアウト エンジンと競合して文字コードを誤解釈することが確認されています。
具体的には、段落番号/箇条書きの自動判定ロジックが KB5058499 で一部拡張され、「数字 + 半角ピリオド」に類似するパターンを統合的に処理しようとする際、アジア圏フォントの合字情報を誤参照して 0x30xx 系数字を 0x2022(Bullet, ドット)にマップしてしまう誤動作が発火します。
プレビュー版でのみ顕在化し、本番向けセキュリティパッチでは修正が予定されています。
いますぐできる応急処置
方法 1: KB5058499 をアンインストール
- 設定 → Windows Update → 更新の履歴 を開く。
- 最下部の 更新プログラムをアンインストール リンクをクリック。
- 一覧から
累積更新プログラム (プレビュー) – KB5058499
を選択し、アンインストール ボタンを押下。 - 「本当にアンインストールしますか?」の確認で はい を選択すると自動で再起動が促される。
- 再起動後、Word で新規文書を開き、数字入力時にドットが出ないことを確認。
方法 2: 自動再インストールを防ぐ
アンインストール後に Windows Update が同じパッチを再度取得しないよう、次のいずれかを実施します。
- Windows Update UI から無効化
アンインストール画面と同じ階層にある「最新の更新プログラムをできるだけ早く入手する」スイッチを オフ にし、PC を再起動。 - wushowhide.diagcab(Microsoft 提供トラブルシュータ)で KB5058499 を非表示化。後日解除可能。
- PowerShell を使う場合:
Hide-WindowsUpdate -KBArticleID KB5058499 -Confirm:$false
方法 3: コマンドラインから一括削除(管理者向け)
WUSA /UNINSTALL /KB:5058499 /QUIET /NORESTART
shutdown /r /t 0
長期的な再発防止策
プレビュー系パッチでのトラブルを恒常的に回避するには、運用ポリシーの整備が不可欠です。
代表的なベストプラクティスを以下にまとめます。
対策 | ポイント | 想定適用シーン |
---|---|---|
月例「セキュリティ/品質ロールアップ」を待つ | プレビューを飛ばし、翌月第 2 火曜 (Patch Tuesday) 配信の正式 CU のみ適用。Microsoft による社内検証とフィードバック反映が完了している。 | 本番・業務用 PC 全般 |
Windows Update 一時停止 | 設定 UI から最長 5 週間更新を止め、重大バグの有無を見極める。 | 小規模オフィス/SOHO |
WSUS / Windows Update for Business | 自社サーバーまたは Intune ポリシーで「プレビューをリング外に設定」。Approve 作業後に展開。 | 中~大規模ドメイン環境 |
wushowhide.diagcab で非表示 | GUI 操作だけで特定 KB をブラックリスト化。再表示はワンクリックで復帰可能。 | 個人ユーザー/テストマシン |
検証用 VM を構築 | Hyper‑V/VMware/VirtualBox などでスナップショットを取得し、影響を事前評価。 | IT 部門・情シス |
グループポリシーでの制御手順(企業向け)
gpedit.msc
→ コンピューターの構成 → 管理用テンプレート → Windows コンポーネント → Windows Update → Microsoft Update Service を開く。- 選択した品質更新プログラムをリモートで遅延させる を 有効 にし、「遅延日数」を 14~28 日に設定。
- ドメイン環境では
gpupdate /force
または次回サインイン時に反映。
テレメトリ & ログでの追加確認
アンインストール後も動作が不安定な場合、次のログを確認することで原因を絞り込めます。
- イベント ビューアー:
Application and Services Logs > Microsoft > Windows > Win32k
内に Bullet 文字列変換失敗の警告 (Event ID: 26750) が出力。 - 信頼性モニター: Word.exe の障害履歴に “0xc0000005 / unicharrewrite” が連続していないか確認。
- Office TelemetryDashboard: 影響を受けた文書(Word 形式)の GUID が “Corrupted” タグ付きで表示。
FAQ ― よくある質問
Office の「クイック修復」や「オンライン修復」で直りますか? 根本原因は Windows 側の描画スタックにあるため 回避効果は限定的 です。KB5058499 を除去しない限り再発します。 Word 以外のアプリは完全に安全ですか? 現時点の報告では Excel/PowerPoint には顕在化していませんが、同じフォント API を共有 しているため、フォント置換マクロや Add‑in が動作する環境では潜在的リスクがあります。 プレビューをオフにするとセキュリティパッチも遅れますか? いいえ。月例セキュリティ CU はプレビューとは別チャネルで配信されます。プレビュー無効化が直接セキュリティ更新の遅延を招くことはありません。 Microsoft は公式に認識している? Microsoft 公式フォーラムとヘルスダッシュボードでは 2025‑06‑01 (PT) に既知の問題として登録 され、「今後のリリースで修正予定」 と明記済みです。 6 月の月例 (2025‑06‑10 配信予定) で確実に直る? 執筆時点では修正パッチがプレビューリングで検証中。正式公開後に改めて動作確認を推奨します。
まとめ
- KB5058499 はプレビュー更新。適用直後から Word の数字がドットに化ける深刻バグが発生。
- 最短ルートは アンインストール + プレビュー自動取得の停止。
- 企業環境では WSUS/WUfB/GPO でプレビューリングを外し、VM 検証フローを確立することが安全。
- 6 月以降の正式 CU で修正予定。適用後もテレメトリで監視を続けると安心。
以上の手順を実行すれば、現在発生している文字化けを即座に解消し、同様のトラブルを将来にわたり未然に防止できます。
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